宮沢賢治全集 ちくま文庫 「生徒諸君に寄せる」
ずっと欲しくてたまらなかった宮沢賢治の全集。
文庫版だが、先日、念願の購入を果たしたところだ。
全集だから、 銀河鉄道の夜や 風の又三郎はもちろんのこと、必ず泣けるグスコーブドリの伝記も入っている。春と修羅も。
しかし何度読んでも鳥肌が立つのは、「生徒諸君に寄せる」という詩。
諸君よ 紺いろの地平線が膨らみ高まるときに
諸君はその中に没することを欲するか諸君はこの時代に強ひられ率ゐられて
奴隷のように忍従することを欲するか新しい時代のコペルニクスよ
余りに重苦しい重力の法則から
この銀河系統を解き放て新しい時代のダーウヰンよ
さらに東洋風静観のキャレンヂャーに載って
銀河系空間の外にも至って
更にも透明に深く正しい地史と
増訂された生物学をわれらに示せ新たな詩人よ
嵐から雲から光から
新たな透明なエネルギーを得て
人と地球にとるべき形を暗示せよ新たな時代のマルクスよ
これらの盲目な衝動から動く世界を
すばらしく美しい構成に変へよ諸君はこの颯爽たる
諸君の未来圏から吹いて来る
透明な清潔な風を感じないのか
これが、「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」と達観した大善人と勘違いされてきた「空想的社会主義者(吉本隆明評)」の心の叫びである。
宮沢賢治没後75年、四半世紀が経つが、新たな時代のコペルニクスやダーウィンやマルクスはまだ現れない。
無駄に平和を貪るわれわれは、地平線に没し、奴隷のように忍従し続けているのである。